Japan Heritage

日本遺産

「伊丹諸白」と「灘の生一本」
下り酒が生んだ銘醸地、伊丹と灘五郷”ストーリーの舞台エリア紹介

酒どころ 伊丹と灘五郷ものがたり

The Story of ITAMI and NADAGOGO

摂津国の伊丹(兵庫県伊丹市)から湧き起こった、清酒づくりの波。 一大消費地だった江戸まで運ばれた伊丹酒=伊丹諸白(いたみもろはく)は 極上の酒の代名詞にもなりました。その後、中心地は水と流通に恵まれた 西宮〜神戸の「灘五郷」へと移り、現在まで銘醸地として名を馳せています。 そして2020年、日本遺産としては初めての“日本酒”がテーマのストーリー 〜「伊丹諸白」と「灘の生一本」下り酒が生んだ銘醸地、伊丹と灘五郷〜が 日本遺産に認定されました。400年にわたる伊丹・灘の清酒の歴史において、 それぞれの地域が担い、果たしてきた役割を見ていきましょう。

“下り酒”で栄えた伊丹と灘五郷のストーリーに関わる5市

伊丹と灘五郷

現在の地図で見ると兵庫県南東部にあたる(東から)伊丹市、尼崎市、西宮市、芦屋市、神戸市の5つの市が、日本遺産に認定された伊丹と灘五郷のストーリーを語る上で重要な役割を果たしています。

Itami

清酒発祥の地、伊丹が切り開いた 「伊丹諸白」の圧倒的な人気

六甲山を西に望む伊丹は、江戸時代には既に多くの酒蔵が立ち並ぶ酒造のまちでした。現在も、重点景観形成区域「伊丹郷町」へ足を運ぶと、往時の趣を感じることができます。また、伊丹市北部で造り酒屋を営んでいた鴻池家は豪商として栄え、「鴻池家は、はじめて清酒諸白を製造し江戸まで出荷した」と刻まれた碑も残しています。「清酒発祥の地・伊丹」を裏付ける重要な石碑です。諸白というのは、両方とも白、つまり、麹にも醪にも玄米ではなく白米を使った酒ということ。当時は白く濁った酒が一般的だったため、見た目にも透き通っていて美しく、味もすっきりと辛口の伊丹酒は洗練された印象を与え、江戸をはじめ全国で人気を博していきました。

伊丹ミュージアム画像

市立伊丹ミュージアム
(旧岡田家・旧石橋家住宅)

伊丹老松酒造

市立観光物産ギャラリー

代表的な文化財

旧岡田家住宅

鴻池稲荷祠碑

小西酒造「長寿蔵」

Amagasaki

江戸へ大量の酒を大切に運ぶため 開発された「菰樽(こもだる)」

伊丹市の南に位置する尼崎市は、伊丹や灘五郷の酒を陰で支えました。江戸では、上方から入ってくる産物を「下り物」として珍重する風潮があり、「下り酒」と呼ばれた伊丹・灘五郷の酒も、ピーク時には年間100万樽が「樽廻船」という酒樽専用の輸送船に揺られて江戸へ下っていきました。その際、船倉に積まれる酒を守るために開発された菰樽。緩衝材として藁(わら)でできた菰で樽をくるんだことが始まりです。そこに酒の銘柄などを施すようになり、尼崎市内の工房では今も手作業で作られています。

尼崎市立歴史博物館画像

尼崎市立歴史博物館

尼崎城画像

尼崎城

尼崎えびす神社画像

尼崎えびす神社

代表的な文化財

菰樽づくり技術

矢野家住宅

神崎金毘羅さんの石灯籠

Nishinomiya

「灘の生一本」を作り出す 六甲山の恵み「宮水」が湧出

江戸時代中期からは、西宮市と神戸市東部の海沿いにあたる「灘五郷」と呼ばれる地域が発展し始めます。伊丹諸白の酒造技術を導入し、江戸への船積みにも便利な地の利もあって、一気に下り酒の一大産地に。現在も日本最大の清酒酒造地帯で、日本酒生産量の1/4のシェアを誇ります。そのうち今津郷、西宮郷という2つの酒造エリアがある西宮市ならではの財産が、宮水(みやみず)という地下水です。伏流水が複雑に交差した結果、酒造りに適した水となって、「灘の生一本」と呼ばれる灘酒特有のすっきりとした風味の酒を生み出してきました。今も西宮郷の井戸では宮水が湧いており、仕込み水として使われています。

白鷹禄水苑

西宮市立郷土資料館

今津灯台

代表的な文化財

宮水発祥之地碑 宮水井
宮水地帯

西宮郷・白鹿辰馬本家酒造
本蔵釜場遺構

西宮神社瑞寶橋

Ashiya

「下り酒の大量生産を支えたのは 芦屋川など六甲山系の急流水車

伊丹・灘五郷の酒が江戸を通じて全国区の知名度を得た要因の一つが、質・量の安定生産です。厳冬期に仕込む寒造り、淡麗な味を生む酒造法の確立、道具の改良といった様々な工夫が量産を実現。芦屋川など六甲山系の急流に設けられた水車も、酒米の精米効率を飛躍的に向上させました。当時の資料には、芦屋川だけで約20カ所もの水車場群が描かれています。こうした数々の好条件と商才により伊丹・灘にもたらされた富を、酒造家たちは地域の発展や芸術・文化の支援に費やしました。芦屋川のそばに立つ「ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)」も当時の気風を表す代表的な近代建築です。櫻正宗の8代目、山邑太左衛門の進取の精神が、世界的な建築家の作品を今に残してくれました。

ヨドコウ迎賓館

柚子商店

滴翠美術館

代表的な文化財

ヨドコウ迎賓館
(旧山邑家住宅)

芦屋川の文化的景観

芦屋川水車絵図

Kobe

冬の季節風「六甲おろし」と 丹波杜氏が支えた酒造技術

灘五郷の酒蔵は、冬の冷たい北風「六甲おろし」を受けやすいよう東西に長く造られています。こうすることで、蔵内を酒造りに適した低温に保て、蒸米を早く冷却できるなど作業効率が上がりました。加えて、農閑期に六甲山の北側からやって来る丹波杜氏の技術が、おいしいと言われる清酒の安定供給を可能にしました。厳寒期に仕込む「寒造り」、発酵を促す「三段仕込み」など、技術や道具の改良を重ねて、現代の清酒につながる酒造りのスタンダードを確立したのです。灘五郷のうち、魚崎郷、御影郷、西郷という3つが神戸市灘区と東灘区にありますが、全国知名度の酒造会社も多く、まさに現代においても日本酒業界を牽引するエリアと言えるでしょう。

白鶴酒造資料館

菊正宗樽酒マイスターファクトリー

灘五郷酒所

代表的な文化財

魚崎郷・櫻正宗山邑家酒造
用具、酒造関連資料

御影公会堂

沢の鶴株式会社大石蔵附灘の酒造用具一式槽場遺構